1.急性膵炎とは
膵臓で分泌される膵液に含まれている炭水化物、タンパク質、脂肪という3大栄養素を消化する酵素の内、膵内では不活性なタンパク質消化酵素が何らかの原因で活性化し、膵臓そのものが消化されてしまう(自己消化)疾患です。その結果、膵液を分泌する細胞が次々に破壊され、活性化した膵酵素が血液や尿あるいは腹水へとあふれ出し、膵周囲の脂肪壊死、膵実質の浮腫や壊死を認めます。膵の自己消化が急速に進行すると、炎症が膵臓だけにとどまらず全身に影響を及ぼすようになり、腎臓、肺、肝臓、心臓などの重要臓器の障害をきたし、死に至ることもあります。(図1)
2.原因
急性膵炎を引き起こす原因で最も多いのはアルコールの大量摂取によるものです(アルコール性)。普段から適量以上の飲酒をしている人がいつも以上に大量に飲酒した場合、胃液や膵液の分泌の上昇、膵管の出口のむくみなどにより膵液の流れが滞ったり、アルコールそのものが膵臓を刺激したりします。また、十二指腸への出口部分で膵管と胆管が合流しているため、胆管内を移動してきた胆石が合流部に詰まると膵液が流れにくくなり急性膵炎を引き起こします(胆石性)。この他、胃や膵臓の手術後、胆管や膵管の造影検査(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)後の場合や原因がはっきりしない場合もあります(特発性)。発生頻度は男性が女性の約2倍で、男性ではアルコール性が約4割,胆石性と特発性が約2割、女性では胆石性と特発性が約3割、アルコール性が約1割、男性で40~50歳代、女性で60~70歳代に多い傾向があります。
3.症状と診断
上腹部の急性腹痛発作や背中の痛みが出現し、吐き気や嘔吐、発熱を伴うこともあり、重症例では呼吸困難、意識障害もあらわれます。
診断は症状と検査所見から行われ、①上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある、②血中、尿中あるいは腹水中に膵酵素の上昇がある、③画像で膵に急性膵炎に伴う異常がある、の3項目中2項目を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものが急性膵炎と診断されます。血液・尿検査として血中膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ、エラスターゼ1など)、尿中アミラーゼ、血算(白血球数、血小板数など)、CRP(C反応性タンパク)、肝臓や胆道系酵素、血液凝固系検査などがあります。画像検査として胸・腹部単純X線検査、腹部超音波検査(エコー検査)、CT検査(コンピュータ断層撮影検査)などがあり、炎症の広がり程度や重症度を判定します。重症度は基本的に死亡の危険度から判定され、軽症、中等症、重症に大きく分けられています。
4.治療
内科的治療と外科的治療があります。基本的治療である内科的治療は、絶食、絶飲して膵臓の安静を保つ、活性化した膵酵素の働きを抑える、腹痛などの痛みを抑える、点滴で水分や栄養を補給する、膵臓や周囲の感染を予防することが基本で、タンパク質分解酵素阻害薬、鎮痛薬、抗菌薬などが投与されます。胆石が原因の場合には、内視鏡を用いて十二指腸の膵管の出口を塞いでいた胆石を取り除くこともあります。
症状が進行する例や重症例で腎臓、肺、肝臓、心臓などの重要臓器の障害を認める場合は、全身の集中管理が必要になり、膵臓に流れる動脈にカテーテルを留置して薬物を投与する動注療法や血液中の有害物質を除去する血液濾過や血液透析などの血液浄化療法、また、肺障害のため人工呼吸管理が行われることもあります。
外科的治療は重症例で膵臓や周囲の組織が壊死したり感染したりした場合に行われ、溜まった膿を体外に排出(ドレナージ)したり、壊死物質を手術的に取り除いたりします。軽症や中等症の急性膵炎の多くは内科的治療で治癒しますが、重症急性膵炎では死亡率が20~30%と高く、専門医療機関で治療する必要があります。(図2)