1.ウイルス性肝炎とは
肝炎ウイルスの感染によって生じる肝臓の炎症性疾患をいいます。ウイルスの初感染時に急激に発症する急性肝炎と、ウイルスが持続感染をして生じる慢性肝炎に分類されます。現在判明している肝炎ウイルスには、A型、B型、C型、D型、E型があり、それぞれの特徴を表に示します。D型はB型ウイルスと重感染する特殊なウイルスであり、わが国ではほとんど認めません。
表:各種ウイルス性肝炎の特徴
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A型
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B型
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C型
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E型
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潜伏期
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15-45日
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30-180日
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15-160日
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15-60日
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慢性化の割合
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0%
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1%
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70-80%
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0%
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劇症化の割合
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<0.1%
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1-2%
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<0.1%
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2-5%
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感染経路
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経口
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経皮
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経皮
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経口
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2.原因と症状
1)急性肝炎
急性肝炎は発熱、全身倦怠感、食欲低下、嘔吐などにはじまり、急激な肝障害が出現する病態で、多くは黄疸を伴います。通常、特別な治療は必要とせず、安静、臥床によって改善を待ちます。しかし、一部では、致死率の高い劇症肝炎へ進展しますので、注意が必要です。
(1)A型肝炎
貝類、カキなどの生食によってウイルスが経口感染し、2-6週の潜伏期の後、発症します。通常、1-2ヶ月で完全に治癒し、慢性化はしません。
(2)B型肝炎
血液、体液を介した感染形態を示しますので、B型肝炎ウイルス感染者の血液が体内にはいったり、感染者と性交渉を持ったりすることで感染します。潜伏期は1-6ヶ月であり、1-2%に劇症化が出現します。通常、3歳以降の感染では一過性感染で治癒しますが、近年、性交渉などで感染した後、慢性化しやすい欧米型のB型ウイルスによる急性肝炎が、都市部を中心に散見されています。
(3)C型肝炎
B型同様、血液と体液を介した感染形態を示し、症状も類似しますが、70-80%の症例で慢性化します。現在、輸血用血液に関しては、B型、C型ウイルスの検査が行われており、輸血を介した感染はほとんどありませんが、過去の輸血や血液製剤使用を原因とする慢性肝疾患が、社会的問題となっています。
(4)E型肝炎
A型同様、経口感染の形態をとりますが、主に豚、猪、鹿などの生肉を介して感染します。劇症化は2-5%に出現しますが、慢性化はしません。
2)慢性肝炎とその治療
6ヶ月以上肝障害が持続する病態をいい、B型、C型のウイルス感染が原因となります。B型ウイルスは3歳以前に感染すると持続感染状態になり、母子感染が主な原因です。C型は既述したように、過去の医療行為を介した感染からの慢性化が多くを占めます。いずれも症状はほとんど認められず、健診や偶然の機会に肝障害が発見され診断されます。肝細胞の障害が慢性的に続くことによって、肝臓に線維の増生が生じて肝硬変へと進展していきます。また、この過程で肝細胞癌の発生率が高まります。B型ウイルスを根治する治療は未だになく、経口抗ウイルス薬やインターフェロンを用いて、ウイルスの増殖を抑え、肝炎の沈静化を目指します。C型ウイルスにはインターフェロンを基本とした治療を行いウイルスの消失を目指します。いずれのウイルスによる慢性肝炎でも、抗ウイルス治療が困難な場合は、抗炎症薬などによって肝硬変への進展を遅らせ、肝細胞癌の早期発見に努めることが重要となります。(インターフェロン療法の項をご参照ください。)