膵がんは膵臓にできる悪性腫瘍である。早期発見が難しく、治療が難しいがんとして知られている。日本における2005年の膵がんの死亡数はがんの死亡部位別にみると第5位である。死亡率は高いが、画像診断の進歩で早期に発見される症例が増えつつ有り、治療法も進歩してきている。
膵がんのほとんどのものが「浸潤性膵管がん」である。膵がんは周囲に広がりやすいという特徴を持ち、発見された時点でほとんどが進行がんとなっている。膵がん発生の危険因子とされるのは、喫煙、膵がんの家族歴、遺伝性膵がん症候群、糖尿病、慢性膵炎、遺伝性膵炎などである。
膵がんと診断された患者さんの自覚症状としては、腹痛(約40%)、黄疸(約15%)が多く、ついで、腰痛や背部痛、体重減少などがある。膵がんと診断される前に糖尿病が発症しているケースが多い。糖尿病の発症や悪化は膵がんを発見する大きな目安といえる。
がんのできる部位によって症状がやや異なる。症状が現れやすいのが膵頭部がんである。腹痛、黄疸、体重減少がみられる。
膵がんが疑われるとき、まず行われる検査は、膵酵素と腫瘍マーカーの測定である。腫瘍マーカーとしては、CA19-9、Span-1、CA50、DU-PAN-2、CEAなどがあるが、膵がんがあるからといって必ず上昇するとは限らない。画像診断としては、腹部超音波検査(US)、CT、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)、MR胆管膵管撮影(MRCP)、超音波内視鏡(EUS)などがある。最近では陽電子放射断層撮影(PET)が行われることもある。
手術を含む治療法の選択や予後の予測には、正確な病期診断が不可欠である。一般にCTを中心に、USやEUSを用いて総合的に判断されている。膵がんは診断時に進行していることが多く、切除可能な症例は限られる。手術術式としては、がんが膵頭部にあるときは、膵頭部だけではなく十二指腸、胃の一部、胆嚢、胆管などを取り除く「膵頭十二指腸切除術」を行う。がんの浸潤具合により胃を切除しない「幽門輪温存膵頭十二指腸切除術」も行われる。膵体部や膵尾部にがんがあるときは、尾側膵切除術が行われる。切除が望めない場合でも、QOL(生活の質)を向上させるために行う手術もある。膵がんの進行によって黄疸や消化管閉塞などが起こっているとき、胆管と空腸や胃と空腸などをつなぐバイパス手術が行われる。切除以外の膵がんの治療法としては化学療法や放射線治療がある。2001年に塩酸ゲムシタビンが認可され、膵がん化学療法は大きく前進した。切除不能例や術後再発例に有効である。最近では術後補助療法(再発予防)としての有効性も示されている。2006年からは内服の抗がん剤であるS-1も認可され、今後膵がん化学療法の新たな展開が期待されている。